場所の記録・「薬香草園」(埼玉県 飯能市)
みなさんこんにちは。林です。今回は私が訪れた場所について、その記録を残します。今後もどこかへ行く機会、とどまる機会があれば同様に記していこうと思います。
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2024年9月7日、私は埼玉県飯能市にある「メディカルハーブガーデン 薬香草園」へ行った。
ここはハーブ・アロマテラピー関連事業を手がける「株式会社生活の木」が運営するハーブ園である。正面入口には同社商品を販売するショップが併設され、建物内には蒸留が体験できる設備が備えられている。また、ワークショップやイベント、マルシェが開催されている。なお本園は来る本年9月29日を以て閉園を迎える。
私が「薬香草園」を知ったのはことし4月のこと。WebゲームメディアGame*Sparkにて「FF7リバースのポーションを作ろう!」という記事を執筆するにあたり、ハーブのことを調査しようと思い立った。その取材先としてこの園を以前に訪れていたのだ。
西部鉄道 飯能駅から西武バスで6分ほど、「美杉台小学校」停留所の前に「薬香草園」はある。ハーブ園と聞くと、あたかも周囲を緑に囲まれた場所や、土地の拓けたところに立地していそうに思えるが、周辺は住宅地となっている。ここは、平成元年に”街びらき”された「美杉台ニュータウン」に面するハーブ園なのだ。
ハーブ園の敷地は、小高いエリアが段々畑のように連なった、縦に長く伸びる坂の形となっている。正面入口は坂の途中のロードサイドに面するが、そこからさらに奥の方に向かって傾斜の付いた庭園が続いているかたちだ。そしてその両隣はそのまま生活道となっており、すぐ横には地元住民が暮らす家々が立ち並ぶ。
ハーブ園であるから、もちろん園内にはハーブをはじめとした種々の草木が生い茂る。これらは園のガーデナーの手で管理されて植えられたものもあれば、どこからか侵入してきたであろう植物もあるように思われた。ガーデンではバタフライピー、ダリア、カンナといった面々が花を咲かせ、盛夏を過ごした植物は活力をみなぎらせていた。
植物たちと同様、動物たちもこの園内にやってくる。私が歩いている最中も、トカゲやショウリョウバッタ、ハチ、チョウに出会うことができたし、近くからは小鳥のさえずりが、遠くからはトンビの鳴き声が聞こえてきた。9月とはいえ夏の暑さはまだ陰りを見せず、セミの声も響いていた。今回私は出会えなかったが、地域に住むネコもここを巡回するようである。
園内は入場無料で、営業時間中であれば敷地内に誰もが自由に出入りすることができる。また正面入口だけでなく、敷地の横を通る道の途中からも入園が可能だ。先述したように住宅地に面していることもあって、地元に住む人々が犬の散歩に訪れることもある。企業が運営する施設ではあるものの、私にはとっては、なかば地域の公共の場のようにも感じられ、とても興味深かった。
私が以前訪れた時はGW前の平日だったためか、そこまで人出は多くなかった。今回は土曜日で、かつ「美杉台マルシェ」という市が行われていたこともあり、多くの人が来園し賑わいを見せていた。マルシェには個人製作のクラフト品やキッチンカーが出店。来場者は家族連れや老夫婦、10名ほどの団体客など幅広く、ガーデンを散策したり、休憩所で思い思いに憩いの時を過ごしたりしている様子が窺えた。
ハーブガーデンへと向かう手前には「メディカルハーブハウス」というハーブ苗や樹木苗の販売所がある。主にポット苗や鉢植えを販売しており、ガーデナーからハーブや樹木の特徴・栽培方法を聞いたうえで商品を購入できる。私は以前、取材に際してここでマジョラム、セージ、オレガノを購入したが、それらは今も家のベランダで生育しており、日々の料理に香りを添えている。
9月29日の閉園に際して、「薬香草園」ではメモリアルな企画・展示を行っている。開園から28年間の記録をAtoZの頭文字で紹介するパネルや、来場者からのメッセージを貼り付けられるメッセージボード、施設の壁面に描かれた写真撮影用のスポットなどだ。楽しげに写真撮影に臨む来場者も多く見受けられ、結果としてそれは無意識的に、自身と園のつながりを後世に残しているように私には思われた。
また、施設内のベーカリーでは過去に人気のあったメニューを復刻販売、ショップでは「薬香草園」をイメージしたエッセンシャルオイル「薬香草園の風」「薬香草園の風」といった記念商品が販売されている。香りのベースは、どちらのオイルも近いもののように思ったが、「薬香草園の風」は抜けるような爽やかさがあり、「薬香草園の記憶」は静かにとどまるような落ち着きが感じられた。
ベーカリーで販売されているクラフトコーラはスパイスが効き、まだまだ暑い9月にぴったりの飲み物だった。冬場にはホットも販売されていたようだ。このほかバタフライピーティーといったドリンクも用意されている。
私が来場した時点でメッセージボードには多数のメッセージが寄せられていた。あくまで個人の印象だが、長年培われた園とのつながりを語る、おそらくは地元住民からのメッセージが多かったように感じた。ダイレクトな物言いで残念がったり感謝する子どもからのメッセージも多く、小さいころに来ていたという中学生や、今回の閉園を知って訪れたという声も、なかにはあった。
帰りがけに職員の方に伺ってみたが、今後、この土地自体がどのようになるのかは未定ということだ。「生活の木」の商品が購入できるショップは各地にあるが、こうしたハーブガーデンは「薬香草園」のみだ。閉園したからといって、すぐに植物や動物がいなくなるということはないだろう。これからこの場所がどう管理されるのかはわからないが、たとえ今の環境が無くなってしまっても、ここに居た植物も動物もおそらく拡散していく(あるいはもう既にした)はずだ。
「薬香草園」は28年間、この地に植わってきた。そしてガーデンと周辺の住環境は、ほどよく隣り合い、その一部は混じり合っている。メッセージボードに寄せられたメッセージを見るかぎり、ここは近隣住民にとっても自身と切り離しがたい場所なのではないだろうか、と私は想像した。
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