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往復書簡ー崎田1

石原葉さま

お手紙ありがとうございます。私も『アガタ』の本番が終わったら書くと言って、結局1ヶ月が過ぎてしまいました。ごめんなさい!
コレクティブの話、葉さんからは何度も聞いているはずですが、文章になったものを読んでみて改めてなるほどと思ったところは、コレクティブとは、個々人や役割として別々のものが集まっているのではなく、家族的な親密さでお互いに混じり合って作品が作られていくというところです。
私はゲッコーパレードがコレクティブ的になっていった頃から、(2020年に美術家である葉さんをはじめ、演劇以外のジャンルの人が一気に増えました)自分の立ち位置が揺らいでいくのをひしひしと感じていました。作家と呼ばれる人、つまりテーマやコンセプトを考え、構成を組み立て、実際に手を動かして制作し、作品を世に送り出すまで一人でやってしまう、0から1を生み出す人と対等に話をして作品を作ることはとてもできないと思っていました。少なくとも当時の私の経験の中には動機や責任を全て自分で担うという形で作品を世に提出したことはありませんでした。
それとちょうど同じくらいの時期に、ゲッコーパレードで俳優として舞台に立っているときに、私は自分の力を存分に発揮できているのだろうかという思いを抱くようになり、そこから劇場シリーズが生まれていきました。今になって思うと、それらは深く関わっていて、演劇を作る上で誰が何にどこまで責任を持つのか、という話や、誰の動機から出発しているのかという話に繋がっていきます。その辺りの話をしているととんでもなく長くなりそうなので、おいおいお話できたらと思いつつ割愛します。

やっと質問の答えなのですが、私は今回の『アガタ』のコラボレーションは上手くいったのではないか、と思っています。そう思う理由として、まず、役割とか立場とかを超えて、石原葉という一人の人とちゃんと向き合って作品作りがしたいという当初の目標が達成されたと思うからです。葉さんの手紙にもありましたが、まず「アガタ」を読んで、そこから私たちに響いたセリフやシーンについて話し、私たちの主題を決めそれに沿って台本を作りました。稽古では私がやってみて、みていた葉さんが気づいたことをいい、話をして、また私がそれを踏まえてやってみるということを繰り返し行いました。
もう少し具体的によかったことを2つ。まず葉さんと本を読むところから一緒にやり、話をしていく中で私たちの主題を見つけたこと。「私たちの」と言えるのは結構すごいことだと思うのです。先述した通り、特に集団創作をする演劇の現場では、テーマや主題、作品の出発点のようなものは誰か一人(多くは演出家や主宰やプロデューサーといった人が担うことが多いと思いますが)の中にあり、それを「私たち」のことにするには、それこそ家族的な時間の過ごし方や関わり方が必要なのだろうし、疑似的であっても他人とそのような関係になるということは、容易に達成されることではないと思います。
もう一つは稽古場で「わからない」を言えたこと。一般的に演劇の稽古場では俳優が曖昧な演技をすることは稽古を停滞させる原因になるのでよしとされないものです。でもここではそれも「私たち」のことにできた。机に向かって考えて、全てのセリフや行動に納得のいく答えが出るわけではありません。むしろわからないことの方が多い。それを演じる中で、他者と話す中で見つけていくこともたくさんある。それを人に見せる時に100%できているわけではない。まだ決めきれてないんだけど……と言い出せること、そしてそうかーと言って一緒に考えてくれるということがとてもよかった。大体そういう時は稽古が停滞して進まなくなるのですが、進まない稽古はなかった。それがとてもよかった。特に主題というか一番大事にしたい部分というのは、私の場合それは言葉にならない混沌とした抽象的な塊のようなものなのですが、それを演じる中で、他者と話す中で輪郭が見えてくるということがある。それが行き詰まりを感じることなくできたのは私にとってとても大きな成功体験でした。
演劇が役割分担の中で作られるものというのは確かにそういう考え方もありますが、私個人の意見としては、それだけでは上手く作れないと思っています。つまり演劇を作る集団には、役割的なコラボレーションもあるけれど、人間と人間が交差する家族的なコラボレーションも必要だと思うからです。今回のような、役割ではなくその人であることの方が大事という関わり方。私はこれからもそういう意識で作品を作っていきたいし、そういう風に他者と関わっていきたい。そちらに比重を傾けても「作品」を作ることができるとわかったことは今回の企画の大きな収穫だったと思います。
いわゆる一般的な演劇の創作現場とは違っていたと思いますが、葉さんはこの企画をやっている間、もしくは終えてみて何を考えましたか。並行して葉さん自身の創作も進んでいたと思いますが、何か互いに影響し合うことはありましたか。


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