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この道を行けばどうなるものか––『へべれけ2』ローグライトなさんぽみち【ビデオゲームコラム】

こんにちは。林です。
記事タイトルはプロレスラー・アントニオ猪木氏の言葉として有名な一節から拝借させてもらいました。本来は宗教家・哲学者の清沢哲夫氏による詩が大元だそうです。さて、今回取り上げるのはゆるーいローグライトアクション『へべれけ2』。

ローグライトあるいはローグライクは、ごくごく簡単に言えばプレイヤーが複数回ダンジョン(迷宮)に挑むたびに道が変化するという特徴を備えているゲームジャンルです。ほかにも要素はありますが、突っ込むとひじょーにややこしい分野ですので今回は割愛します。今回の記事タイトルもこの特徴に掛けてつけました。日本においては長年「ローグ系」「不思議のダンジョン」といった名称(チュンソフトの商標です)で一般的に親しまれてきました。

ビデオゲームのなかでも古い歴史を持つローグライクですが、ここ数年でたいへん流行したジャンルでもあります。しかしそんなローグライクは、ある程度ゲームを遊ぶ人ですら「難しい、硬派、ゲーマー向け、ダーク」といったイメージがつきまとうのジャンルなのではないでしょうか。もちろん例外や反証はありますし、まさしく「ローグライト」自体がローグライクの要素を緩めたものを総合して括ったものです。

とはいえこのジャンルをWeb検索すると頻出する、ダンジョンに「潜る」といった表現、周回を前提としたプレイスタイルなど、やはり全体としてはマニアックな雰囲気が漂っています。『へべれけ2』は一見して分かる通り、ファンシーでゆるい雰囲気のゲームで、このジャンルの持つイメージとはまるで相反しているように思えます。

『へべれけ2』は、主人公「へべ」が「おーちゃん」「すけざえもん」「ぢぇにふぁー」といった仲間たちと共に、地球(と彼らが言っている)をなぞの物質「ぶみょん」で汚す「うつーじん」を追って、さまざまなエリアを巡っていく横スクロールアクションゲームです。

上記の説明を見てゲームのあらましはわかったでしょうか。これは私の文章力の問題ではなく、実際こういったシュールな感じのお話なのです。ゲームの難易度は高くはなく、全体に漂うテイストは不条理ギャグ、端々にへべたちの寸劇が入るなど、終始ゆるい雰囲気でへべたちの珍道中が続きます。フェルトのようなグラフィックに、アイロンビーズを模したアイコン、コマを落としたアニメーションなどは、とても凝った作りになっていて、見た目にも本作の作風とぴったり合致しています。

私は『へべれけ2』をクリアまでプレイしたのですが、このゲームに取り入れられていたシステムはたしかにローグライトではありました。ただ、先ほど述べたような「潜る」「周回」といった硬派な要素をさほど感じることはありませんでした。進むステージの雰囲気もちょっと変わるくらいで、前髪を数ミリ切りそろえた程度。言うなればローグライトライトライトライトくらいな感じです。

それほどまでにライトならば、はたして本作にローグ的な要素は必要だろうか、と思ってしまうかもしれません。私も最初はそう思いました。しかし、実はそれこそが重要なアクセントでした。何度かプレイしているうちに、「『へべれけ2』のダンジョンはへべたちにとって、いつものおさんぽやおでかけくらいの心持ちなんじゃないだろうか?」と思えてきたからです。

このゲームは、ステージクリアをすると毎回帰ることになる「へべんち」(へべの家)がゲームの中心点にあります。各エリアはそこから上下左右に分かれていますが、決まった方向に進めば必ず辿り着くようになっており、場所が入れ替わることはありません。本作のローグ的な部分はその道中にちょっとした変化が生じるだけなのです。

ローグライクゲームの多くは、周回するたびに変化するダンジョンに挑み、頭を悩ませ、のるかそるかの立ち回りを演じながらスリルを楽しむゲームだといえます。しかし『へべれけ2』がプレイヤーに味わわせたいものは、そのゆるい世界観や不条理ギャグ、へべたちが活躍する姿だと思います。へべたちが迷わないこととプレイヤーを迷わせないことは繋がっています。実際、プレイヤーたる私自身はへべを操作している際は緊迫感はさほどなく、ひたすら前進していくことで得られる躍動を強く感じました。

当たり前ですが実際の散歩というのは、世にあるローグ系ゲームのように家を出て決まった方向に進んだのに、道の構造がまるきり変わっている…なんてことはありません。しかし、たとえ同じ道を通り、同じ方向に進んでいたとしてもその景色や状況が全く同じであることもまたありえません。

街路であればそこを通る人は違うだろうし、花が咲いていたりしおれていたり、植生、天気や音、匂いだって同じとは言いがたいものです。そこを通る自分の気分によってすら景色は変わり、地面を通して体が受け取る感触も異なる。『へべれけ2』におけるローグ要素のランダム性というのは、そういった「いつもの道に起こるちょっとした変化」の表現に用いられていて、それが本作のゆるさを引き出すうえで有効に作用していると感じました。

なお、ローグライトゲームは「蓄積」という要素がゲームサイクルで重要な役割を果たすことが多いジャンルでもあります。たとえば、ダンジョン攻略やボス攻略の成否に応じて得られるリソース的な蓄積。そしてそのリソースを使用して拠点やキャラを強化する、能力の蓄積。こうした蓄積と強化を繰り返して再び攻略に臨む、といった具合です。

『へべれけ2』も他のローグライトゲームと同様に、道中にあるコインや「うつー缶」(リソース)を集め、自動販売機で購入することで、拠点にアイテムを置いたり、キャラを強化したり、ステージに新機能を追加(能力の蓄積)することができます。このうち新ステージのアンロックやキャラクターの体力強化などはゲーム進行や難易度そのものに作用するものです。

その一方、『へべれけ2』の拠点「へべんち」で蓄積されていくのは、へべの家(とへべが言い張っている木の上)のインテリアです。しかしこれらは実のところゲームの進行にはあまり作用しません。テレビには難易度上昇、本棚にはヘルプの再読といった機能こそあるものの、特別ゲームクリアに有利になるというわけではありませんし、価格も高めに設定されているため、クリア終盤あるいはクリア後のおまけ程度の機能となっています。

本作を起動し、タイトル画面で最初に見る場所、そしてステージクリア後に毎回帰ることになる場所、そんな始まりと終わりの場所が「へべんち」です。周回をするたびに見慣れていくこのホームが、機能的にはなんら変わらず、見た目だけが少しずつ変わっていく。そのこともまた、本作のゆるさに寄与しています。

また、購入できるへべたちのスキルとして「歌をうたう」というものがあります。しかしこれもゲームのルールや進行になんら作用しません。ただ、ボタンを押したらどこでも歌えるだけです。

一見すると噛み合わず、衝突しているように見えたり、機能として成り立っていなかったりするように見える『へべれけ2』のローグライト要素。たしかにローグ系固有のよさや強い中毒性といったものが本作で味わえるか、と言えばそれは違うと私も思います。

しかし私は本作を、ローグライト版「へべれけ」というより、抽出されたローグライト要素が「へべれけ」のなかに入ったものとして見ています。

もし味というものに方向性があるなら、向いている方向はそう大きくは変わらない「へべれけ味」。だけど逆方向の味もちょっと入って後味がちがう。なんかやっちゃう、なんかあと引く。やめられないとまらない、そんないい塩梅。『へべれけ2』のローグライト要素は、こうしたゆるい反復性を生み出すために必要なひとさじの調味料だったのでしょう。

と、ここまでいろいろと書きましたが、むつかしいことはさておき、へべたちの姿に惹かれたら遊んでみてはいかがでしょうか。

『へべれけ2』はNintendo Switch、Playstation 5、XBOX、Steamの各プラットフォームで発売中です。

・『へべれけ2』(サンソフト公式ホームページ)
https://www.sun-denshi.co.jp/soft/hebereke2
・ファミコン版初代『へべれけ』の復刻版
『へべれけ えんじょいえでそん』(シティコネクション公式ホームページ)
https://city-connection.co.jp/hebereke/


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