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【ビデオゲーム書籍紹介】『ゲーム職人は眠れない-Macintosh RPG“Samurai mech”making story』(著・野間口修二/新紀元社)

『ゲーム職人は眠れない』国立国会図書館サーチより

世の中にはビデオゲームに関連する書籍というものが結構あります。
ゲーム総合情報誌、攻略本、ビジネス、コラム、批評、カタログなど、その種類はさまざま。
今回紹介するのはゲーム製作者自身が記したあるゲームの製作の記録です。

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『ゲーム職人は眠れない-Macintosh RPG“Samurai mech”making story』は、Macintosh用のロールプレイングゲーム(RPG)『サムライメック』および『サムライメック2・天』の製作記として著された書籍だ。著者はこのゲームのシナリオを中心にゲーム製作に携わった野間口修二氏。

この本が出版されたのは1996年。『サムライメック』は国産初のMacintosh用RPGとして1992年にリリースされ、続く『2』は1994年にリリースされている。両作ともSFと時代劇の要素をミックスさせた風変わりな設定となっており、アイテムや装備品の役割を「メック」という機械が果たしている。

本書には、『サムライメック』リリース後、野間口氏たちが『サムライメック2・天』の製作に取り掛かり、リリースするまでの顛末が描かれている。前作まではモノクロだったゲーム画面をカラー化するといった、続編をいかにパワーアップさせるかという点や、前作の製作時に起きた問題を反省し、新たな方針を立てて製作に取り組む過程など、小規模なチームが紆余曲折を経ながらプロジェクトを進める様が見て取れる。こうした描写は職務の裏側を描いたドキュメンタリーとして、ゲームに対してそれほど理解がない読者にとって面白く読むことができるだろう。

一方で、本文中にはゲームのごく簡易的なプログラミングやゲームが動く仕組みも解説されている。野間口氏自身も製作ツールを使ったマップの作製やフラグ管理(ゲームを進行させるための条件のようなもの)の作業を行うものの、あくまで彼はプログラマーではない。著者がそうした微妙な立ち位置にあることで、あまり専門的になりすぎず、読者もついていけるレベルにまとまっている。『RPGツクール』などに触れたことがある人ならば平易に理解できるだろうし、逆にこれからゲーム製作をしようとする人の手引きとしても活用できるのではないかと感じた。

文章の語り手は野間口氏自身で、全体像として製作チーム全体の動きを記述しつつも、彼個人が担当するパートの製作風景や自身のゲームに対する考えなどが差し挟まれている。この本に登場する人々の多くはゲームのユーザーとしての顔も持っており、それぞれの考えや問題意識がその言動から見て取れる。とりわけ野間口氏が自身の考えを記した文章は、いちユーザーが1980年代末から90年代中盤にかけての日本のゲームをどう捉えていたのかを読者にダイレクトに伝えている。

本の後半、ゲーム製作が佳境に入ると、野間口氏の記憶や時間間隔は曖昧になっていく。長期間、会社に泊まり込みでゲーム製作を続けていた当時のゲーム製作の凄まじさや製作にかける執念を物語る描写だが、こうしたエピソードは当時ゲーム開発に身を置いていた人々の話や記録から目にすることも多い。2023年現在ではゲーム会社でこうした働き方をしている人は相当減ったと思うが、現在もインディーゲームの個人開発者などは、このような形でゲーム製作を行っているのかもしれないと思った。

本書の取り扱う「1990年代日本でのMacintosh用ゲーム製作」というテーマはなかなかニッチだが、単なる記録というよりもストーリー仕立てに描かれ、誰にとっても読みやすい。また、こうした書籍があまり間を置かず当事者の手から出ていたことは、ビデオゲームについて何らかの興味関心がある者にとっては貴重な記録ともなっている。

私自身、このゲームのリリース当時は物心がつく前で、当時は『サムライメック』の存在どころかMacintoshなど知る由もなかった。2010年代に入り、インターネットでゲームについて調べる中で、『サムライメック』の存在を知り、興味を持った。そして最近になって近隣の図書館で本書を取り寄せられることを知り、実際に読んだ次第だ。

私は『サムライメック』が動作可能な当時のMacintosh環境はいまだに揃えられず、ゲーム本編をプレイ出来ていない。そのため本作は憧れが募るばかりのゲームであり、だからこそ本書の内容はとても有意義だった。さらに言えば現在もゲーム業界で活躍する人々が登場するなど、それまでつながっていなかった点が線としてつながる発見があった。(たとえば、本作の開発を担当した有限会社ウルトラの取締役社長である森川幸人氏(現 モリカトロン株式会社 代表取締役)。本作の美術や本書のカバーイラストも手がけている)

なお、『サムライメック』の情報サイトとして名高い「SAMURAI MECH 零」というWebサイトがあり、私もこちらで本作のことを知った。このサイトを運営する方の熱意と、本作をリリースした株式会社ヒューリンクスの厚意により、現在でも「SAMURAI MECH 零」上で初代と『2』がダウンロード配布されている。もし古いMacintosh環境を構築・再現できる方がいれば、本作をプレイしてみてはいかがだろうか。


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