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本間 志穂
Homma Shiho

戦いにドレスは必要か

「あゝ、荒野」の新次とバリカン。新次はボクシングの語り手ではなく、魅力的な生の塊としてリングに立っている。バリカンはボクシングで他者に話しかける。

私にとってピアノと対峙することは、リングに上がって戦うボクサーのようなものだと思っています。ボクサーは相手がいて成り立つスポーツですが、リングの上での敵は自分自身なのだと思います。恐怖で目を瞑ってしまうとやられてしまう。恐怖を認め、そこからどのように回避していくか。考えて、身を守り攻撃につなげていく。しっかりと目を開き、呼吸を止めずに全力で流れを見据える。身体を通して受ける衝撃が自分にとっての唯一リアルなものであって、それだけが信頼できることです。身体を通して他者と出会うこと、他者を認識することで自分の呼吸ができてくるのだと思います。そしてその時に初めて歌が生まれるのだと信じています。そんな歌を歌えるようになりたい。

音楽の語源であるμουσικη(ムーシケー/ギリシャ語)は昔、舞踊・詩・音楽を総称したものでした。それがだんだん主観やテクニックの追求によって消費されるものになっていった。音楽には”語り手“が必要とされてきた。 音楽は消費されるものではなくて、他者である。けして奏でる者、語り手の為にあるものではないと思う。況してや見せつけるものでもなければ、見られるものでもない。雰囲気作りの道具でもない。ただそこに在るものだと思っている。 音楽の3要素と言われるリズム、メロディー、ハーモニーだけが音楽じゃない。 私にとっての音楽は、まなざしを向けるべき他者です。 私は表面的なものではなくて、その先にあるものが見たい。 他者の他者になれるように、そんな距離を見つけたい。 それだけが自分にとってのリアルなものだと思っています。 とにかく私に必要なのはドレスではなく、自分の渇きを埋める水のようなものです。 その渇きを埋めるためなら立ち居振る舞いを気にせずにいたい。でたらめでもいい。
撮影:瀬尾 憲司

本間 志穂 / Homma Shiho

ピアノ奏者 / Pianist

1989年静岡県生まれ、東京都町田市出身。
高校、大学と音楽を学び卒業後、美学校にて現代美術を学ぶ。

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