メンバー
Member

柴田 彩芳
Shibata Ayaka

大きな窓から光が入る、真っ白な空間がある。入り口には大ぶりの葉をつけた観葉植物が置かれていて、エドワード・ホッパーの「カフェテリアの日ざし」でみたような、薄く引き伸ばされた時間が漂っている。ここへ来るまでに、あなたはベージュ色の塀、アパートの自転車置き場、雑居ビルの薄暗い廊下を見る。白い空間には、そのどこかで見た風景のすべてが、窓から入る光に照らされて並んでいた。真っ青な箱の中に、絵の具で描かれた風景を、あなたは何故か上手く捉えることができない。今まで見てきた風景は、ちゃんと捉えられていたのだろうか。奥へ進む。小さな空間が一つ。絵画が三点、どれもあのアニメに登場する風景が描かれている。しかしその風景は幾重にも重なり、ブレた写真の様で、やはり捉えられない。あなたの目は絵の中で循環する。あなたは自分の視線を見ているに過ぎない。

空間は細い廊下で奥へと続いている。外から車の走る音や歩く人の話し声が聞こえたが、この音も、進むにつれて徐々に遠く消えていった。あなたは今どこを歩いているのだろう。暖色のライトが空間を照らすその部屋で、再び大きな窓が現れる。窓の傍に、小さなテーブルと椅子が二つ置かれている。コバルトブルーに染められた窓越しには、真っ暗な夜景が見える。もうずいぶんと時間が経ってしまった。ふとその時、誰かが部屋に入ってきた気がした。もしかしたら、エドワード・ホッパーかもしれない。

柴田 彩芳 / Shibata Ayaka

美術家 / Picture Artist

1990年、栃木県生まれ。京都造形芸術大学大学院卒業。

世界最古の絵画は、およそ7万3千年ほど昔のアフリカにある幾何学模様の洞窟壁画、または4万4千年前のインドネシアの洞窟壁画とされています。

私はそうした人類で最初に絵を描いた人の気持ちを知りたいという思いから、美術史や絵画の成立ちを辿り、絵画・インスタレーション・演劇・文章などの媒体によって探究しています。

Instagram https://www.instagram.com/saihoushibata