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往復書簡ー石原1

前略、崎田さま
企画の1通目。書く書く詐欺をしていてごめんなさい。書きたいなぁと考えている内に崎田さんと話す機会があり、書きたいことがどんどん変わって遅くなってしまいました。
今日は、今私たちが作っているマルグリット・デュラスの『アガタ』※1の崎田さんの稽古に初めて立ち会う日。職場に少し早く出勤して、今この手紙を書いています。
これまでも私は、山形ビエンナーレに出品した『リンドバークたちの飛行』『演劇映像ファウスト』『ファウスト』※2で作品に関わっているのですが(他にも関わっている作品はありますが、いつも遠方でPCを睨めっこするような関わりばかりでした)その時も、企画や制作のような立場である私は時折顔を出しては必要なものを調達しに方々出歩き、作品に直接関わるような話を崎田さんとする機会はあまりありませんでした。むしろ、作品が作り上げられつつある途中の稽古で、流れを知らない自分が何か発言することに躊躇していた、という方が正直なところです。

今回、『アガタ』を作ることになって周囲から「舞台美術をやるの?」「何するの?」とよく聞かれます。今回の作品は舞台美術という美術は特に必要ないですし(もちろん、何か作ることがあれば私が作る役目になるのでしょう)舞台に立つこともなければ、演劇で使う機材に疎い私は音響や照明をやることもありません(多分)。でも一緒にデュラスの『アガタ』を読み、解釈について想像し、考えをひたすら話していくことをしている。この役割は一体なんなのでしょうか。

その質問に対して、私は冗談めかして「役割:壁」とよく話すのですが、スポーツのスカッシュのように、壁に向かってボールを打ち、跳ね返りを打ち返す。虚空に向かってボールを打っても自分の打った力は分からないけど、壁に打てば手応えがわかる。そこに役割名があるのか知らないですが、そういう役割なのだと考えています。

すこし美術の話に引き寄せると、ゲッコーパレード内で私はよくアーティストコレクティブの話をしますね。これは、2018年に美術手帖で取り上げられたことで知った人も多いと思いますが、ざっくり言えば芸術家集団のこと。もう一歩踏み込んで言えば、その集団ではヒエラルキーがなく、スキルやアイデアをシェアし個人では成し得ない作品を作ろうとする集団のことだと考えています。一方で、コレクティブという言葉が使われる前は「ユニット」という言葉がよく使われていました。1999年に福島県立美術館「共同制作の可能性 コラボレーションアート展」図録で美術評論家の建畠晢氏は、アヴァンギャルドの作家たちのように一時的に共同制作をするアーティストと違い、継続的に活動を続けるコラボレーション・アーティストは「仲間的、家族的、兄弟的、夫婦的、あるいは同性愛的な紐帯(たとえ疑似的なものであれ)に依拠して」おり、「個々のメンバーは必ずしもアノニマスな存在であるとは限らないにしても、自己完結的なアイデンティティとは無縁なところで成立するコラボレーションである」と述べています※3。また同展に関して、真柴毅氏はクリスト※4を例に挙げ、彼のコラボレーションは大規模プロジェクトの作業員との間にあるのではなく、夫人との発想段階にあるとし、彼らの作品は”思想としての芸術”=コンセプチュアル・アートであり、「作品は創られた結果としてではなく、創ること自体の観念や行為として捉えていた」ことで、自ずと「日頃から行動をともにする理解者がそのまま作品構想の相談者となり、最終的に共同制作にいたる経緯は自然の成り行きといえるだろう」と述べています※5。
だからこそ、「ユニット」というこれ以上分割することのできない言葉を冠するわけです。彼らは明確な役割分担の中で作品を制作しているのではなく、自分とは違う他者の言葉に互いに誘発されながら作品を作っていく。これはコレクティブが「co(共に)-llective」であり、別々のものが集まっているというのとは根本的に違うニュアンスを持っています。

ゲッコーパレードでは私たちは肩書きを持ちーー俳優や美術家というーー活動をしている、のに対し、今回のコラボレーションはどうでしょうか。もちろん一人芝居という形式をとっている以上、崎田さんは「俳優・崎田」から逃れられないと思いますが、私は「美術家」という役割を持った人、というより、互いに誘発する「他者」として、「ユニット」のような関わり方をしているような気がしています。演劇というメディア自体が、明確な役割分担の中で集団制作がなされているイメージがある中で、今回の作品はどういう実験だったといえるのでしょうか。
崎田さんにとって今回の制作はどのようなものでしたか。お返事はきっと公演が終わった後でしょう。良い作品になるように頑張りましょう〜

※1 11/8、崎田ゆかり+石原葉として京都Urbanguildの3CASTにて『アガタ』上演の予定。現在制作を進めている。
※2 アーカイブページ
『リンドバークたちの飛行』『演劇映像ファウスト』『ファウスト』
※3 建畠晢,「コラボレーションの新たな地平」,『共同制作の可能性 コラボレーションアート展』1999年,福島県立美術館
※4 クリスト&ジャンヌ=クロード。エンバイロンメンタル・アート。巨大な構造物を「梱包」するプロジェクトで有名。
※5 真柴毅「共同制作の可能性」,『共同制作の可能性 コラボレーションアート展』1999年,福島県立美術館


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